// Resources for SEEN5004.TXT
// #character '朋也'
#character 'Tomoya'
// #character '智代'
#character 'Tomoyo'
// #character '部員'
#character 'Staff member'
// <0000> アフター5日目
<0000> After - Day 5
// <0001> 今日は祭日なので、学校は休みだ。
<0001> 今日は祭日なので、学校は休みだ。
// <0002> \{朋也}「今日はどうするんだ。休みだと学校には入れないだろう」
<0002> \{Tomoya}「今日はどうするんだ。休みだと学校には入れないだろう」
// <0003> \{智代}「うん。まずは買い物に行こうと思っている。食料品が少なくなってきたからな」
<0003> \{Tomoyo}「うん。まずは買い物に行こうと思っている。食料品が少なくなってきたからな」
// <0004> \{智代}「私の家から持ってくるにしても、朋也の家の冷蔵庫に入れておくにしても、そろそろ補充が必要だろう」
<0004> \{Tomoyo}「私の家から持ってくるにしても、朋也の家の冷蔵庫に入れておくにしても、そろそろ補充が必要だろう」
// <0005> その意見には賛成だった。
<0005> その意見には賛成だった。
// <0006> この数日は出かけても学校ばかりで、いい加減、息抜きもしたいところだった。
<0006> この数日は出かけても学校ばかりで、いい加減、息抜きもしたいところだった。
// <0007> おれたちは商店街に向かった。
<0007> おれたちは商店街に向かった。
// <0008> \{朋也}「この辺りはずいぶん変わったな」
<0008> \{Tomoya}「この辺りはずいぶん変わったな」
// <0009> \{智代}「ああ、そうだな。昔に比べれば、かなり発展しているだろうな」
<0009> \{Tomoyo}「ああ、そうだな。昔に比べれば、かなり発展しているだろうな」
// <0010> \{智代}「この町に住む人も増えたからな」
<0010> \{Tomoyo}「この町に住む人も増えたからな」
// <0011> 智代と一緒に歩く町並み。
<0011> 智代と一緒に歩く町並み。
// <0012> 言われるまでもなく、その様子はおれの記憶にあるものとは大きく変わっている。
<0012> 言われるまでもなく、その様子はおれの記憶にあるものとは大きく変わっている。
// <0013> こんなところに、こんな建物はあっただろうか、とか、こんな道はあっただろうか、とか。
<0013> こんなところに、こんな建物はあっただろうか、とか、こんな道はあっただろうか、とか。
// <0014> 時間の流れを感じざるを得ない。
<0014> 時間の流れを感じざるを得ない。
// <0015> \{朋也}「あれはなんだ?」
<0015> \{Tomoya}「あれはなんだ?」
// <0016> おれは街角にはみ出ているピンク色の機械に目を留めた。
<0016> おれは街角にはみ出ているピンク色の機械に目を留めた。
// <0017> \{朋也}「あそこは…ゲーセンか?」
<0017> \{Tomoya}「あそこは…ゲーセンか?」
// <0018> 建物の中の騒がしそうな様子から想像する。
<0018> 建物の中の騒がしそうな様子から想像する。
// <0019> 中学時代はよく通っていた。本当は出入りは禁止されていたが。
<0019> 中学時代はよく通っていた。本当は出入りは禁止されていたが。
// <0020> ただ、ここではない。この町には、もうひとつあったはずだ。
<0020> ただ、ここではない。この町には、もうひとつあったはずだ。
// <0021> そちらに比べると、規模も大きいようだ。
<0021> そちらに比べると、規模も大きいようだ。
// <0022> \{智代}「うん、あそこはゲームセンターだ」
<0022> \{Tomoyo}「うん、あそこはゲームセンターだ」
// <0023> \{智代}「私はほとんど行ったことはないけどな」
<0023> \{Tomoyo}「私はほとんど行ったことはないけどな」
// <0024> 興味が湧いた。
<0024> 興味が湧いた。
// <0025> \{朋也}「ちょっと寄ってもいいか?」
<0025> \{Tomoya}「ちょっと寄ってもいいか?」
// <0026> \{智代}「うん」
<0026> \{Tomoyo}「うん」
// <0027> \{智代}「ただ、あそこは今年の春くらいにできたところだから、おまえは行っていないと思うぞ」
<0027> \{Tomoyo}「ただ、あそこは今年の春くらいにできたところだから、おまえは行っていないと思うぞ」
// <0028> \{朋也}「もうひとつの方は、おれもよく行っていたのか?」
<0028> \{Tomoya}「もうひとつの方は、おれもよく行っていたのか?」
// <0029> \{智代}「みたいだな。私は立場上、近寄るわけにいかなかったから寂しかったんだぞ」
<0029> \{Tomoyo}「みたいだな。私は立場上、近寄るわけにいかなかったから寂しかったんだぞ」
// <0030> \{朋也}「立場?」
<0030> \{Tomoya}「立場?」
// <0031> \{智代}「うん。校則では禁止されていたからな」
<0031> \{Tomoyo}「うん。校則では禁止されていたからな」
// <0032> \{智代}「生徒会長が行くわけにはいかないだろう」
<0032> \{Tomoyo}「生徒会長が行くわけにはいかないだろう」
// <0033> …ちょっと待て。
<0033> …ちょっと待て。
// <0034> 今、聞きなれない単語が聞こえたぞ。
<0034> 今、聞きなれない単語が聞こえたぞ。
// <0035> \{朋也}「生徒会長?」
<0035> \{Tomoya}「生徒会長?」
// <0036> \{智代}「うん、そうだ。生徒会長だ。朋也は生徒会長を知らないのか?」
<0036> \{Tomoyo}「うん、そうだ。生徒会長だ。朋也は生徒会長を知らないのか?」
// <0037> \{智代}「生徒会の会長のことを、生徒会長と言うんだ」
<0037> \{Tomoyo}「生徒会の会長のことを、生徒会長と言うんだ」
// <0038> \{智代}「生徒会と言うのはだな、全校生徒の代表として…」
<0038> \{Tomoyo}「生徒会と言うのはだな、全校生徒の代表として…」
// <0039> \{朋也}「いや、それくらいは知ってるが…」
<0039> \{Tomoya}「いや、それくらいは知ってるが…」
// <0040> \{朋也}「智代がその生徒会長だったってのは初めて聞くぞ」
<0040> \{Tomoya}「智代がその生徒会長だったってのは初めて聞くぞ」
// <0041> \{智代}「そうか…」
<0041> \{Tomoyo}「そうか…」
// <0042> 少し考え込む様子を見せる。
<0042> 少し考え込む様子を見せる。
// <0043> \{智代}「まだ言ってなかったか」
<0043> \{Tomoyo}「まだ言ってなかったか」
// <0044> \{朋也}「ああ。初耳だ」
<0044> \{Tomoya}「ああ。初耳だ」
// <0045> \{智代}「まあ、あまり大したことじゃないだろう」
<0045> \{Tomoyo}「まあ、あまり大したことじゃないだろう」
// <0046> \{朋也}「じゃあ、おれは、その…生徒会長と付き合っていたのか?」
<0046> \{Tomoya}「じゃあ、おれは、その…生徒会長と付き合っていたのか?」
// <0047> \{智代}「そういうことになるな」
<0047> \{Tomoyo}「そういうことになるな」
// <0048> \{智代}「もっとも、付き合い始めた頃は私はまだ当選していなかったが」
<0048> \{Tomoyo}「もっとも、付き合い始めた頃は私はまだ当選していなかったが」
// <0049> \{朋也}「おれは、そんなすごいやつと知り合いだったのか…」
<0049> \{Tomoya}「おれは、そんなすごいやつと知り合いだったのか…」
// <0050> \{智代}「違うぞ、朋也」
<0050> \{Tomoyo}「違うぞ、朋也」
// <0051> \{智代}「知り合いじゃない。恋人だ」
<0051> \{Tomoyo}「知り合いじゃない。恋人だ」
// <0052> 訂正が入る。
<0052> 訂正が入る。
// <0053> \{朋也}「ああ、そうだったな」
<0053> \{Tomoya}「ああ、そうだったな」
// <0054> \{朋也}「なんか智代がすごいやつに見えてきた」
<0054> \{Tomoya}「なんか智代がすごいやつに見えてきた」
// <0055> \{智代}「生徒会長なんて別にすごくない」
<0055> \{Tomoyo}「生徒会長なんて別にすごくない」
// <0056> 智代が生徒会長だった。
<0056> 智代が生徒会長だった。
// <0057> それはおれの記憶にとって重要なことじゃないだろうか。
<0057> それはおれの記憶にとって重要なことじゃないだろうか。
// <0058> どういう経緯があったかはまだ聞いていない。
<0058> どういう経緯があったかはまだ聞いていない。
// <0059> おれは学校でも不良と呼ばれていたらしい。
<0059> おれは学校でも不良と呼ばれていたらしい。
// <0060> そんなおれと生徒会長が付き合っていたとなれば、なにかしらあったに違いない。
<0060> そんなおれと生徒会長が付き合っていたとなれば、なにかしらあったに違いない。
// <0061> 智代は、まるで本当にうっかり言い忘れていたみたいだ。
<0061> 智代は、まるで本当にうっかり言い忘れていたみたいだ。
// <0062> どうしてだろうか。
<0062> どうしてだろうか。
// <0063> 少し疑問に思う。
<0063> 少し疑問に思う。
// <0064> \{智代}「あれは、シールプリント機だ」
<0064> \{Tomoyo}「あれは、シールプリント機だ」
// <0065> \{朋也}「えっ?」
<0065> \{Tomoya}「えっ?」
// <0066> 突然話題が変わって戸惑う。
<0066> 突然話題が変わって戸惑う。
// <0067> \{智代}「あそこに置いてある機械のことだ。さっき訊いてきただろう」
<0067> \{Tomoyo}「あそこに置いてある機械のことだ。さっき訊いてきただろう」
// <0068> \{朋也}「あ、ああ。そう言えば、そうだったな」
<0068> \{Tomoya}「あ、ああ。そう言えば、そうだったな」
// <0069> \{智代}「写真を撮って、それをシールにする機械だ」
<0069> \{Tomoyo}「写真を撮って、それをシールにする機械だ」
// <0070> \{智代}「少し前に、女の子の間で流行ったものだな」
<0070> \{Tomoyo}「少し前に、女の子の間で流行ったものだな」
// <0071> \{朋也}「へー、変わってるな」
<0071> \{Tomoya}「へー、変わってるな」
// <0072> ゲーセンといえば、対戦格闘ゲームに脱衣麻雀。男と男の世界だと思っていたが。
<0072> ゲーセンといえば、対戦格闘ゲームに脱衣麻雀。男と男の世界だと思っていたが。
// <0073> 最近は、女の子も来るようになっているのか。
<0073> 最近は、女の子も来るようになっているのか。
// <0074> \{智代}「そうだ、撮ってみないか。私も久しぶりだ」
<0074> \{Tomoyo}「そうだ、撮ってみないか。私も久しぶりだ」
// <0075> \{智代}「ひとりで撮るのは、さびしいからな」
<0075> \{Tomoyo}「ひとりで撮るのは、さびしいからな」
// <0076> \{智代}「本当は友達や恋人とやるものなんだ」
<0076> \{Tomoyo}「本当は友達や恋人とやるものなんだ」
// <0077> \{朋也}「別に構わないけど」
<0077> \{Tomoya}「別に構わないけど」
// <0078> おれも興味があったので、その提案には賛成する。
<0078> おれも興味があったので、その提案には賛成する。
// <0079> 智代が財布からコインを取り出して、入れる。
<0079> 智代が財布からコインを取り出して、入れる。
// <0080> 画面に明かりがつき、見るとおれと智代が映っていた。
<0080> 画面に明かりがつき、見るとおれと智代が映っていた。
// <0081> 写真の枠を決めたり、文字を書き込むことができるようだ。
<0081> 写真の枠を決めたり、文字を書き込むことができるようだ。
// <0082> \{智代}「うん。これにしよう」
<0082> \{Tomoyo}「うん。これにしよう」
// <0083> 智代がハートマークのフレームを選び、さらに相合傘まで書き添える。
<0083> 智代がハートマークのフレームを選び、さらに相合傘まで書き添える。
// <0084> \{朋也}「なんか恥ずかしいな」
<0084> \{Tomoya}「なんか恥ずかしいな」
// <0085> \{智代}「たまにはいいじゃないか」
<0085> \{Tomoyo}「たまにはいいじゃないか」
// <0086> そう言いながら、腕を絡めてくる。
<0086> そう言いながら、腕を絡めてくる。
// <0087> 思わず、隣を見つめる。
<0087> 思わず、隣を見つめる。
// <0088> 柔らかい。
<0088> 柔らかい。
// <0089> 腕とはまた違う感触がある。
<0089> 腕とはまた違う感触がある。
// <0090> この感じは…
<0090> この感じは…
// <0091> まさか…
<0091> まさか…
// <0092> カシャッ。
<0092> カシャッ。
// <0093> 突然、シャッターが切られる音がした。
<0093> 突然、シャッターが切られる音がした。
// <0094> 智代がスイッチを押したのだ。
<0094> 智代がスイッチを押したのだ。
// <0095> \{智代}「ほら、朋也が横を向いていたから、変な写真になってしまった」
<0095> \{Tomoyo}「ほら、朋也が横を向いていたから、変な写真になってしまった」
// <0096> そう言いながらも、智代は笑っている。
<0096> そう言いながらも、智代は笑っている。
// <0097> わざとやったに違いない。
<0097> わざとやったに違いない。
// <0098> \{朋也}「写す前に一言、言ってくれ」
<0098> \{Tomoya}「写す前に一言、言ってくれ」
// <0099> 一応、文句を言っておく。
<0099> 一応、文句を言っておく。
// <0100> しばらく待つと、小さな写真が四枚出てくる。
<0100> しばらく待つと、小さな写真が四枚出てくる。
// <0101> 予想どおり、智代の方を見ているおれの顔は変ににやけていた。
<0101> 予想どおり、智代の方を見ているおれの顔は変ににやけていた。
// <0102> 最悪の仕上がりだ。
<0102> 最悪の仕上がりだ。
// <0103> \{智代}「ふふ。おかしいな、朋也」
<0103> \{Tomoyo}「ふふ。おかしいな、朋也」
// <0104> 智代はなにか嬉しそうだ。
<0104> 智代はなにか嬉しそうだ。
// <0105> \{智代}「これはシールになっている」
<0105> \{Tomoyo}「これはシールになっている」
// <0106> \{智代}「少し前は、これを友達同士で交換するのが流行ったんだ」
<0106> \{Tomoyo}「少し前は、これを友達同士で交換するのが流行ったんだ」
// <0107> そう言って、智代は一枚はがす。
<0107> そう言って、智代は一枚はがす。
// <0108> ぺたり、とおれのおでこに貼った。
<0108> ぺたり、とおれのおでこに貼った。
// <0109> \{智代}「うん。朋也だ」
<0109> \{Tomoyo}「うん。朋也だ」
// <0110> 額がもぞもぞする。
<0110> 額がもぞもぞする。
// <0111> そもそもが紙に貼るためのものだろう。人間に貼っても、すぐに落ちてしまいそうだ。
<0111> そもそもが紙に貼るためのものだろう。人間に貼っても、すぐに落ちてしまいそうだ。
// <0112> って言うか、貼るな。
<0112> って言うか、貼るな。
// <0113> おれがはがそうとすると、智代が止める。
<0113> おれがはがそうとすると、智代が止める。
// <0114> \{智代}「いいじゃないか。ずっと貼っておいてほしい」
<0114> \{Tomoyo}「いいじゃないか。ずっと貼っておいてほしい」
// <0115> \{朋也}「顔が洗えない」
<0115> \{Tomoya}「顔が洗えない」
// <0116> \{智代}「洗わなくても、十分かっこいい」
<0116> \{Tomoyo}「洗わなくても、十分かっこいい」
// <0117> \{朋也}「すぐにはがれるぞ」
<0117> \{Tomoya}「すぐにはがれるぞ」
// <0118> \{智代}「セロハンテープで補強しよう」
<0118> \{Tomoyo}「セロハンテープで補強しよう」
// <0119> \{智代}「うん。うちに帰ったらすぐにやろう」
<0119> \{Tomoyo}「うん。うちに帰ったらすぐにやろう」
// <0120> \{朋也}「ちょっと待て。そもそも、恥ずかしい」
<0120> \{Tomoya}「ちょっと待て。そもそも、恥ずかしい」
// <0121> \{朋也}「これじゃあ、おれは変な人みたいだ」
<0121> \{Tomoya}「これじゃあ、おれは変な人みたいだ」
// <0122> \{智代}「冗談だ。本気にするな」
<0122> \{Tomoyo}「冗談だ。本気にするな」
// <0123> 少し笑った後、寂しそうな顔を見せた。
<0123> 少し笑った後、寂しそうな顔を見せた。
// <0124> \{智代}「でも、私の写真は持っていてほしい。そして、いつもそばに置いてほしい」
<0124> \{Tomoyo}「でも、私の写真は持っていてほしい。そして、いつもそばに置いてほしい」
// <0125> \{智代}「そうすれば、忘れてもすぐに思い出してくれるかもしれない」
<0125> \{Tomoyo}「そうすれば、忘れてもすぐに思い出してくれるかもしれない」
// <0126> \{智代}「そうだろう?」
<0126> \{Tomoyo}「そうだろう?」
// <0127> \{朋也}「………」
<0127> \{Tomoya}「………」
// <0128> おれはどう答えていいか、わからなかった。
<0128> おれはどう答えていいか、わからなかった。
// <0129> \{智代}「すまない…なんでもないんだ」
<0129> \{Tomoyo}「すまない…なんでもないんだ」
// <0130> \{智代}「とりあえず、あとの三枚は私がもらうから、朋也のぶんは、おでこの一枚だ」
<0130> \{Tomoyo}「とりあえず、あとの三枚は私がもらうから、朋也のぶんは、おでこの一枚だ」
// <0131> \{智代}「なくさないように、しっかりと貼りつけておくんだぞ」
<0131> \{Tomoyo}「なくさないように、しっかりと貼りつけておくんだぞ」
// <0132> おれはしばらく、額を手で押さえながら歩いた。
<0132> おれはしばらく、額を手で押さえながら歩いた。
// <0133> さすがにずっとそうしているのは無理があったので、なくさないように大事にズボンのポケットにしまい込んだ。
<0133> さすがにずっとそうしているのは無理があったので、なくさないように大事にズボンのポケットにしまい込んだ。
// <0134> 小さい物だから、ハンカチに包んだ。
<0134> 小さい物だから、ハンカチに包んだ。
// <0135> 智代はおれのその行動を、黙ったまま嬉しそうに眺めていた。
<0135> 智代はおれのその行動を、黙ったまま嬉しそうに眺めていた。
// <0136> それから、スーパーに寄って食料品を調達する。
<0136> それから、スーパーに寄って食料品を調達する。
// <0137> 団子売り場では、おばちゃんがひとり座っていて、カセットで『だんご大家族』の歌を流している。
<0137> 団子売り場では、おばちゃんがひとり座っていて、カセットで『だんご大家族』の歌を流している。
// <0138> \{朋也}「まだ流行ってるのか」
<0138> \{Tomoya}「まだ流行ってるのか」
// <0139> おれの記憶では、ちょうど日本中がだんごフィーバーだった。
<0139> おれの記憶では、ちょうど日本中がだんごフィーバーだった。
// <0140> 子供はもちろん、年寄りまで誰もが知っている歌で、年末の歌合戦にも出場するだろうとか言われていた。
<0140> 子供はもちろん、年寄りまで誰もが知っている歌で、年末の歌合戦にも出場するだろうとか言われていた。
// <0141> まさか本当に国民的な歌になったんだろうか。
<0141> まさか本当に国民的な歌になったんだろうか。
// <0142> \{智代}「残念ながらそれはない。もうこの歌を聞けるのは、ここの団子屋さんくらいだろう」
<0142> \{Tomoyo}「残念ながらそれはない。もうこの歌を聞けるのは、ここの団子屋さんくらいだろう」
// <0143> \{朋也}「だろうなぁ…」
<0143> \{Tomoya}「だろうなぁ…」
// <0144> 荷物を家に置き、昼食をとった後、学校に向かった。
<0144> 荷物を家に置き、昼食をとった後、学校に向かった。
// <0145> 今日は校舎には入れないから、グラウンドまでだ。
<0145> 今日は校舎には入れないから、グラウンドまでだ。
// <0146> 先日は自分がバスケをできなくなっていることを思い知らされ、ここには何となくいい印象がない。
<0146> 先日は自分がバスケをできなくなっていることを思い知らされ、ここには何となくいい印象がない。
// <0147> 祭日にも関わらず、野球部が練習をしている。
<0147> 祭日にも関わらず、野球部が練習をしている。
// <0148> 智代は何を思ってか、その様子をグラウンドの端で眺めていた。
<0148> 智代は何を思ってか、その様子をグラウンドの端で眺めていた。
// <0149> 仕方なく、おれもその隣でぼうっとしていた。
<0149> 仕方なく、おれもその隣でぼうっとしていた。
// <0150> 金属バットの快音、ボールがミットに収まる乾いた音、部員のかけ声、いろんな音が入り交じる。
<0150> 金属バットの快音、ボールがミットに収まる乾いた音、部員のかけ声、いろんな音が入り交じる。
// <0151> それらの音は、動いている、という事実をおれに嫌でも実感させる。
<0151> それらの音は、動いている、という事実をおれに嫌でも実感させる。
// <0152> \{朋也}「なあ」
<0152> \{Tomoya}「なあ」
// <0153> 場所を変えたい、と思った。
<0153> 場所を変えたい、と思った。
// <0154> と、その時。
<0154> と、その時。
// <0155> \{部員}「坂上さんじゃないですか」
<0155> \{Staff member}「坂上さんじゃないですか」
// <0156> グラウンドでボールを投げていたひとりが、こちらに気づいて大きな声を出す。
<0156> グラウンドでボールを投げていたひとりが、こちらに気づいて大きな声を出す。
// <0157> それから、こちらに近づいてくる。
<0157> それから、こちらに近づいてくる。
// <0158> キャプテンなのだろう。彼がグラウンドを離れると、他の部員の手も休んだ。
<0158> キャプテンなのだろう。彼がグラウンドを離れると、他の部員の手も休んだ。
// <0159> そいつはおれの顔を認めると、笑いかけてきた。
<0159> そいつはおれの顔を認めると、笑いかけてきた。
// <0160> \{部員}「岡崎先輩も一緒なんですね」
<0160> \{Staff member}「岡崎先輩も一緒なんですね」
// <0161> おれのことを知っているようだ。
<0161> おれのことを知っているようだ。
// <0162> その声は純粋に親しみのこもったものだった。
<0162> その声は純粋に親しみのこもったものだった。
// <0163> \{部員}「また練習つけてくださいよ」
<0163> \{Staff member}「また練習つけてくださいよ」
// <0164> \{朋也}「練習?」
<0164> \{Tomoya}「練習?」
// <0165> \{部員}「はい、お願いします。この前みたいに」
<0165> \{Staff member}「はい、お願いします。この前みたいに」
// <0166> \{智代}「いや、今日はそういうつもりじゃないんだ。ちょっと見ているだけだ」
<0166> \{Tomoyo}「いや、今日はそういうつもりじゃないんだ。ちょっと見ているだけだ」
// <0167> 智代が途中で遮る。
<0167> 智代が途中で遮る。
// <0168> \{部員}「そうなんですか…残念です」
<0168> \{Staff member}「そうなんですか…残念です」
// <0169> \{部員}「坂上先輩が入ってくれると、みんな気合が入りますから」
<0169> \{Staff member}「坂上先輩が入ってくれると、みんな気合が入りますから」
// <0170> \{智代}「もうそろそろ引退じゃないのか?」
<0170> \{Tomoyo}「もうそろそろ引退じゃないのか?」
// <0171> \{部員}「いや、そうしたいところなんですけどね。部員が少ないですから」
<0171> \{Staff member}「いや、そうしたいところなんですけどね。部員が少ないですから」
// <0172> \{部員}「秋の大会が終わるまでは、練習に付き合わないといけないんですよ」
<0172> \{Staff member}「秋の大会が終わるまでは、練習に付き合わないといけないんですよ」
// <0173> \{部員}「だから、先輩も一緒にやってもらえると嬉しいんですけどね」
<0173> \{Staff member}「だから、先輩も一緒にやってもらえると嬉しいんですけどね」
// <0174> \{智代}「悪いな。今日はちょっと駄目だ」
<0174> \{Tomoyo}「悪いな。今日はちょっと駄目だ」
// <0175> \{部員}「いえ、いいですよ。また、お願いします」
<0175> \{Staff member}「いえ、いいですよ。また、お願いします」
// <0176> それだけ言うと、一礼して彼はグラウンドに戻っていった。
<0176> それだけ言うと、一礼して彼はグラウンドに戻っていった。
// <0177> 他のメンバーもこちらを見ていて、智代が入らないのがわかると、どこかがっかりしたようだった。
<0177> 他のメンバーもこちらを見ていて、智代が入らないのがわかると、どこかがっかりしたようだった。
// <0178> ふたたび、グラウンドに音が戻る。
<0178> ふたたび、グラウンドに音が戻る。
// <0179> \{朋也}「野球部と知り合いなのか?」
<0179> \{Tomoya}「野球部と知り合いなのか?」
// <0180> \{智代}「うん、まあな…」
<0180> \{Tomoyo}「うん、まあな…」
// <0181> \{智代}「生徒会長の選挙運動の一環だったんだ」
<0181> \{Tomoyo}「生徒会長の選挙運動の一環だったんだ」
// <0182> \{朋也}「えっ?」
<0182> \{Tomoya}「えっ?」
// <0183> \{智代}「朋也が言い出したことだ。あれは、まるで道場破りみたいだった」
<0183> \{Tomoyo}「朋也が言い出したことだ。あれは、まるで道場破りみたいだった」
// <0184> \{智代}「私は反対したんだ。野球なんてしたことなかったし、人気取りみたいな方法は嫌だった」
<0184> \{Tomoyo}「私は反対したんだ。野球なんてしたことなかったし、人気取りみたいな方法は嫌だった」
// <0185> 少し、しかめつらを見せる。
<0185> 少し、しかめつらを見せる。
// <0186> それから、思いきりの笑みを浮かべた。
<0186> それから、思いきりの笑みを浮かべた。
// <0187> \{智代}「うん。今から思うと、あれは楽しかったな」
<0187> \{Tomoyo}「うん。今から思うと、あれは楽しかったな」
// <0188> 智代の運動神経に目をつけたおれが春原と一緒に、一般生徒の智代への関心を高めようと、部活勝負を挑ませたらしい。
<0188> 智代の運動神経に目をつけたおれが春原と一緒に、一般生徒の智代への関心を高めようと、部活勝負を挑ませたらしい。
// <0189> 肩が使えないおれは実際には参加はしなかったが、そのぶんは春原が頑張ったとのことだ。
<0189> 肩が使えないおれは実際には参加はしなかったが、そのぶんは春原が頑張ったとのことだ。
// <0190> ピッチャーが智代、キャッチャーが春原。
<0190> ピッチャーが智代、キャッチャーが春原。
// <0191> なんか、その時の様子が思い浮かぶようだった。
<0191> なんか、その時の様子が思い浮かぶようだった。
// <0192> 顔を知らない春原というやつのところだけ、モザイクがかかっている。
<0192> 顔を知らない春原というやつのところだけ、モザイクがかかっている。
// <0193> そして、おれの思惑通りに野球部員をねじ伏せてしまった智代は、それ以来野球部に慕われているという。
<0193> そして、おれの思惑通りに野球部員をねじ伏せてしまった智代は、それ以来野球部に慕われているという。
// <0194> いや、野球部だけではない。
<0194> いや、野球部だけではない。
// <0195> ソフトボール部や剣道部、その他多くの部の勝負に勝ち、智代は人気を得た。
<0195> ソフトボール部や剣道部、その他多くの部の勝負に勝ち、智代は人気を得た。
// <0196> \{智代}「あれがなかったら、結果は変わっていたかもしれない」
<0196> \{Tomoyo}「あれがなかったら、結果は変わっていたかもしれない」
// <0197> \{朋也}「そんなことないだろう」
<0197> \{Tomoya}「そんなことないだろう」
// <0198> その時のことを覚えているわけではないから、詳しくはわからない。
<0198> その時のことを覚えているわけではないから、詳しくはわからない。
// <0199> それでも、おれは思った。
<0199> それでも、おれは思った。
// <0200> \{朋也}「智代なら、たぶん何があっても生徒会長に当選したと思うけどな」
<0200> \{Tomoya}「智代なら、たぶん何があっても生徒会長に当選したと思うけどな」
// <0201> \{朋也}「今の智代を見ていれば、わかる」
<0201> \{Tomoya}「今の智代を見ていれば、わかる」
// <0202> \{朋也}「とても魅力的だからさ…」
<0202> \{Tomoya}「とても魅力的だからさ…」
// <0203> 言ってから、少し照れた。
<0203> 言ってから、少し照れた。
// <0204> \{智代}「…そうか、ありがとう」
<0204> \{Tomoyo}「…そうか、ありがとう」
// <0205> \{智代}「朋也の言葉はいつも私を元気づけてくれる」
<0205> \{Tomoyo}「朋也の言葉はいつも私を元気づけてくれる」
// <0206> 結局そのまま、練習が終わるまで眺めてすごした。
<0206> 結局そのまま、練習が終わるまで眺めてすごした。