// Resources for SEEN0709.TXT
// #character 'とも'
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// #character '智代'
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// <0000> 7月9日(金)
<0000> July 9th (Fri)
// <0001> \{とも}「うわー! こんなきれいなおべんとうはじめてー」
<0001> \{Tomo}「うわー! こんなきれいなおべんとうはじめてー」
// <0002> \{智代}「そうか。気に入ってもらえてよかった」
<0002> \{Tomoyo}「そうか。気に入ってもらえてよかった」
// <0003> \{とも}「とものママ、りょうりうまくないんだー」
<0003> \{Tomo}「とものママ、りょうりうまくないんだー」
// <0004> \{とも}「だから、すごいよー」
<0004> \{Tomo}「だから、すごいよー」
// <0005> \{とも}「パパのママは、りょうりうまいんだ」
<0005> \{Tomo}「パパのママは、りょうりうまいんだ」
// <0006> \{とも}「すごい」
<0006> \{Tomo}「すごい」
// <0007> \{智代}「ほら、いつまでも眺めてないで、支度するぞ」
<0007> \{Tomoyo}「ほら、いつまでも眺めてないで、支度するぞ」
// <0008> \{とも}「うんっ」
<0008> \{Tomo}「うんっ」
// <0009> ふたりが部屋の中を慌ただしく行き来している。
<0009> ふたりが部屋の中を慌ただしく行き来している。
// <0010> 俺も自分の支度を始める。
<0010> 俺も自分の支度を始める。
// <0011> \{とも}「なわとびできるのすごいねー」
<0011> \{Tomo}「なわとびできるのすごいねー」
// <0012> \{智代}「ああ、あんなものはお手の物だ」
<0012> \{Tomoyo}「ああ、あんなものはお手の物だ」
// <0013> \{とも}「手をこうしたり…できるの?」
<0013> \{Tomo}「手をこうしたり…できるの?」
// <0014> ともが小さな腕を交差させた。
<0014> ともが小さな腕を交差させた。
// <0015> \{智代}「できる」
<0015> \{Tomoyo}「できる」
// <0016> \{とも}「それはすごいよー」
<0016> \{Tomo}「それはすごいよー」
// <0017> \{とも}「じゃあ、あれは? えーと」
<0017> \{Tomo}「じゃあ、あれは? えーと」
// <0018> \{とも}「はやいの、なんかいもとぶの」
<0018> \{Tomo}「はやいの、なんかいもとぶの」
// <0019> \{智代}「二重跳びのことだな。二重跳びぐらい簡単だぞ」
<0019> \{Tomoyo}「二重跳びのことだな。二重跳びぐらい簡単だぞ」
// <0020> \{智代}「ちなみに私の最高記録は7重跳びだ」
<0020> \{Tomoyo}「ちなみに私の最高記録は7重跳びだ」
// <0021> \{朋也}「おまえ、すごいなっ」
<0021> \{Tomoya}「おまえ、すごいなっ」
// <0022> 俺が思わず突っ込んでしまう。
<0022> 俺が思わず突っ込んでしまう。
// <0023> \{智代}「ちなみに中学一年の時の記録だ。それからは計ったことがない」
<0023> \{Tomoyo}「ちなみに中学一年の時の記録だ。それからは計ったことがない」
// <0024> \{とも}「とももそれぐらいになったらできるかなー」
<0024> \{Tomo}「とももそれぐらいになったらできるかなー」
// <0025> \{智代}「うん、頑張ればな」
<0025> \{Tomoyo}「うん、頑張ればな」
// <0026> \{とも}「じゃ、がんばるー」
<0026> \{Tomo}「じゃ、がんばるー」
// <0027> いくらなんでも無理だろ。
<0027> いくらなんでも無理だろ。
// <0028> \{智代}「おはよう。今日もともをよろしく頼む」
<0028> \{Tomoyo}「おはよう。今日もともをよろしく頼む」
// <0029> ともを先生に引き渡す。
<0029> ともを先生に引き渡す。
// <0030> \{声}(三島さんのとこの子よ…)
<0030> \{Voice}(三島さんのとこの子よ…)
// <0031> 主婦たちのささやき声が聞こえてきた。
<0031> 主婦たちのささやき声が聞こえてきた。
// <0032> \{声}(三島さん、蒸発しちゃったんだって…)
<0032> \{Voice}(三島さん、蒸発しちゃったんだって…)
// <0033> \{声}(あれは娘さんかしら…)
<0033> \{Voice}(あれは娘さんかしら…)
// <0034> \{声}(三島さんの子、ひとりっ子だったから、親戚の子じゃない…?)
<0034> \{Voice}(三島さんの子、ひとりっ子だったから、親戚の子じゃない…?)
// <0035> たった一日で話は回っているのだ。
<0035> たった一日で話は回っているのだ。
// <0036> \{智代}「………」
<0036> \{Tomoyo}「………」
// <0037> 智代が唇を噛んで、立ちつくしていた。
<0037> 智代が唇を噛んで、立ちつくしていた。
// <0038> \{朋也}「遅刻するぞ」
<0038> \{Tomoya}「遅刻するぞ」
// <0039> その手を引いてやった。
<0039> その手を引いてやった。
// <0040> \{朋也}「後、今日、遅くなるかもしれないから」
<0040> \{Tomoya}「後、今日、遅くなるかもしれないから」
// <0041> \{智代}「………」
<0041> \{Tomoyo}「………」
// <0042> 智代は地面を向いたまま、小さく頷いた。
<0042> 智代は地面を向いたまま、小さく頷いた。
// <0043> 今日も洗濯機の修理だ。
<0043> 今日も洗濯機の修理だ。
// <0044> メカケースを分解して組み直しチェックを行うと、動作不良はまったくなかった。
<0044> メカケースを分解して組み直しチェックを行うと、動作不良はまったくなかった。
// <0045> どういうことだろうか…。
<0045> どういうことだろうか…。
// <0046> 俺はメーカーの修理用ガイドブックを探し、調べることにした。
<0046> 俺はメーカーの修理用ガイドブックを探し、調べることにした。
// <0047> どうやら異音は下の方から聞こえている。
<0047> どうやら異音は下の方から聞こえている。
// <0048> 洗濯槽を取り外すと、からん、と乾いた金属音がした。
<0048> 洗濯槽を取り外すと、からん、と乾いた金属音がした。
// <0049> これだ。
<0049> これだ。
// <0050> かなり深いところなので、気づかなかった。
<0050> かなり深いところなので、気づかなかった。
// <0051> 回転羽を取り外すと、原因が見つかった。
<0051> 回転羽を取り外すと、原因が見つかった。
// <0052> ヘアピンと硬貨が挟まっていた。
<0052> ヘアピンと硬貨が挟まっていた。
// <0053> 後は組み直して動作テストをすれば大丈夫だろう。
<0053> 後は組み直して動作テストをすれば大丈夫だろう。
// <0054> 午後を過ぎてから、今日も外回りに出た。
<0054> 午後を過ぎてから、今日も外回りに出た。
// <0055> 今日はその方が都合がよい。
<0055> 今日はその方が都合がよい。
// <0056> 仕事が終わったら軽トラを借りたまま、ともが母親と暮らしていたアパートに立ち寄ろうと考えていたからだ。
<0056> 仕事が終わったら軽トラを借りたまま、ともが母親と暮らしていたアパートに立ち寄ろうと考えていたからだ。
// <0057> 親方に許可ももらっておいた。
<0057> 親方に許可ももらっておいた。
// <0058> \{声}「こんにちは」
<0058> \{Voice}「こんにちは」
// <0059> \{朋也}「こんにちは」
<0059> \{Tomoya}「こんにちは」
// <0060> 収集に回っていると、エプロン姿の女性に声をかけられた。
<0060> 収集に回っていると、エプロン姿の女性に声をかけられた。
// <0061> \{主婦A}「聞いたわよ、谷山さんとこの冷蔵庫直したんでしょ?」
<0061> \{Housewife A}「聞いたわよ、谷山さんとこの冷蔵庫直したんでしょ?」
// <0062> \{朋也}「ああ、昨日のですか。修理しましたけど」
<0062> \{Tomoya}「ああ、昨日のですか。修理しましたけど」
// <0063> \{主婦B}「谷山さん、喜んでたわ。ずいぶん助かったって」
<0063> \{Housewife B}「谷山さん、喜んでたわ。ずいぶん助かったって」
// <0064> \{朋也}「そりゃよかったです」
<0064> \{Tomoya}「そりゃよかったです」
// <0065> \{主婦A}「今度、わたしの家でも故障とかあったらお願いできます?」
<0065> \{Housewife A}「今度、わたしの家でも故障とかあったらお願いできます?」
// <0066> \{朋也}「ええ、喜んで」
<0066> \{Tomoya}「ええ、喜んで」
// <0067> \{朋也}「よかったら、こちらにどうぞ」
<0067> \{Tomoya}「よかったら、こちらにどうぞ」
// <0068> 俺は名刺を渡しておくことにした。
<0068> 俺は名刺を渡しておくことにした。
// <0069> ひとりで回るようになった時、一応と作ってもらったものだった。
<0069> ひとりで回るようになった時、一応と作ってもらったものだった。
// <0070> \{主婦B}「岡崎さんね」
<0070> \{Housewife B}「岡崎さんね」
// <0071> \{朋也}「はい。家電とかでいらないものがあった時もお願いします」
<0071> \{Tomoya}「はい。家電とかでいらないものがあった時もお願いします」
// <0072> 人の役に立って喜んでもらえる。
<0072> 人の役に立って喜んでもらえる。
// <0073> それを誰かが伝え、知らない人が頼りにしてくれる。
<0073> それを誰かが伝え、知らない人が頼りにしてくれる。
// <0074> それが、こんなにも充足感をもたらしてくれる。
<0074> それが、こんなにも充足感をもたらしてくれる。
// <0075> 小さな町でいい。有名になんてならなくてもいい。
<0075> 小さな町でいい。有名になんてならなくてもいい。
// <0076> 俺を必要としてくれる人たちがいる。
<0076> 俺を必要としてくれる人たちがいる。
// <0077> それだけでいいんだ。
<0077> それだけでいいんだ。
// <0078> これが俺の生き甲斐なんだ。そう悟る。
<0078> これが俺の生き甲斐なんだ。そう悟る。
// <0079> この気持ちを忘れぬよう胸に刻んで、俺は回収へと戻った。
<0079> この気持ちを忘れぬよう胸に刻んで、俺は回収へと戻った。
// <0080> その日の仕事を終えると、俺は…
<0080> その日の仕事を終えると、俺は…
// <0081> アパートの前にいた
<0081> アパートの前にいた
// <0082> 銭湯の前にいた
<0082> 銭湯の前にいた
// <0083> スーパーの前にいた
<0083> スーパーの前にいた
// <0084> \{朋也}「ふぅ、いい湯だった…」
<0084> \{Tomoya}「ふぅ、いい湯だった…」
// <0085> 今日は銭湯でいろんな効能の風呂を試して回ってみた。
<0085> 今日は銭湯でいろんな効能の風呂を試して回ってみた。
// <0086> ずいぶんと疲れがとれた気がする。
<0086> ずいぶんと疲れがとれた気がする。
// <0087> しばらくトラックにもたれて、傾いていく夕日を眺めていた。
<0087> しばらくトラックにもたれて、傾いていく夕日を眺めていた。
// <0088> その俺の前を小さな女の子が駆けていった。後ろからは母親の呼ぶ声。
<0088> その俺の前を小さな女の子が駆けていった。後ろからは母親の呼ぶ声。
// <0089> ぜんぜん言うことを聞かないようだ。
<0089> ぜんぜん言うことを聞かないようだ。
// <0090> \{朋也}「はは、困ったもんだな」
<0090> \{Tomoya}「はは、困ったもんだな」
// <0091> \{朋也}「…は!」
<0091> \{Tomoya}「…は!」
// <0092> その女の子がともとかぶったところで、俺は思い出した。
<0092> その女の子がともとかぶったところで、俺は思い出した。
// <0093> 本来の目的を。
<0093> 本来の目的を。
// <0094> 今日は、ともの住んでいたアパートを訪れようと思っていたんだ。
<0094> 今日は、ともの住んでいたアパートを訪れようと思っていたんだ。
// <0095> それをこんなところで、ひとっ風呂浴びてるなんて、子供より俺のほうが困った奴だ。
<0095> それをこんなところで、ひとっ風呂浴びてるなんて、子供より俺のほうが困った奴だ。
// <0096> 慌ててトラックに乗り込み、エンジンをかけた。
<0096> 慌ててトラックに乗り込み、エンジンをかけた。
// <0097> 見知らぬ住宅街までやってきた。
<0097> 見知らぬ住宅街までやってきた。
// <0098> \{朋也}「ふぅ、いい買い物をした…」
<0098> \{Tomoya}「ふぅ、いい買い物をした…」
// <0099> 今日は主婦に混ざり、スーパーの安売りセールで山ほど食料を買い込んでみた。
<0099> 今日は主婦に混ざり、スーパーの安売りセールで山ほど食料を買い込んでみた。
// <0100> とても満たされた気分だ。
<0100> とても満たされた気分だ。
// <0101> 手には、ネギをはみ出させた買い物袋。
<0101> 手には、ネギをはみ出させた買い物袋。
// <0102> 子供が好きそうな、ハンバーグやミートボールも安かったので大量に買った。
<0102> 子供が好きそうな、ハンバーグやミートボールも安かったので大量に買った。
// <0103> \{朋也}「とものお弁当にちょうどいいな」
<0103> \{Tomoya}「とものお弁当にちょうどいいな」
// <0104> \{朋也}「…はっ!」
<0104> \{Tomoya}「…はっ!」
// <0105> そこで、俺は思い出した。
<0105> そこで、俺は思い出した。
// <0106> 本来の目的を。
<0106> 本来の目的を。
// <0107> 今日は、ともの住んでいたアパートを訪れようと思っていたんだ。
<0107> 今日は、ともの住んでいたアパートを訪れようと思っていたんだ。
// <0108> それをこんなところで、主婦に混じって何をしてんだ…。
<0108> それをこんなところで、主婦に混じって何をしてんだ…。
// <0109> 俺は慌ててトラックに乗り込み、エンジンをかけた。
<0109> 俺は慌ててトラックに乗り込み、エンジンをかけた。
// <0110> 見知らぬ住宅街までやってきた。
<0110> 見知らぬ住宅街までやってきた。
// <0111> ひなびた公園に隣接した小さなアパート、その階段を上っていく。
<0111> ひなびた公園に隣接した小さなアパート、その階段を上っていく。
// <0112> 一番奥の部屋の前に立つ。
<0112> 一番奥の部屋の前に立つ。
// <0113> 表札は…ない。
<0113> 表札は…ない。
// <0114> ポストからは、チラシがはみ出ていた。
<0114> ポストからは、チラシがはみ出ていた。
// <0115> 漁ってみようかと思ったが、やめた。
<0115> 漁ってみようかと思ったが、やめた。
// <0116> 呼び鈴を鳴らす。
<0116> 呼び鈴を鳴らす。
// <0117> …一向に返事はない。
<0117> …一向に返事はない。
// <0118> ドアノブを回す。当然のように鍵がしてあった。
<0118> ドアノブを回す。当然のように鍵がしてあった。
// <0119> 一階に戻り、管理人を呼び出す。
<0119> 一階に戻り、管理人を呼び出す。
// <0120> その後、鍵を借りて、部屋の中を見せてもらったが、予想通りもぬけの殻。
<0120> その後、鍵を借りて、部屋の中を見せてもらったが、予想通りもぬけの殻。
// <0121> 部屋にはただ電灯がぶらさがっているだけ。
<0121> 部屋にはただ電灯がぶらさがっているだけ。
// <0122> カーテンのない窓から容赦のない西日が差す。
<0122> カーテンのない窓から容赦のない西日が差す。
// <0123> 空虚だった。
<0123> 空虚だった。
// <0124> 管理人に隣人について訊いてみる。
<0124> 管理人に隣人について訊いてみる。
// <0125> \{管理人}「二軒向こうの増田さんのところに同い年の子がいて、仲がよかったよ」
<0125> \{Manager}「二軒向こうの増田さんのところに同い年の子がいて、仲がよかったよ」
// <0126> すぐにその家に向かう。
<0126> すぐにその家に向かう。
// <0127> 呼び鈴を押すと、母親らしき声で返答があった。
<0127> 呼び鈴を押すと、母親らしき声で返答があった。
// <0128> 事情を話すべきか、躊躇した。
<0128> 事情を話すべきか、躊躇した。
// <0129> でも、すでに蒸発の情報は知れ渡っているんだ。
<0129> でも、すでに蒸発の情報は知れ渡っているんだ。
// <0130> 正直に話してみた。
<0130> 正直に話してみた。
// <0131> \{女性}「どうぞ上がってください」
<0131> \{Woman}「どうぞ上がってください」
// <0132> 中に通されることに。
<0132> 中に通されることに。
// <0133> 居間で、ともの母親のことをいろいろと教えてもらえた。
<0133> 居間で、ともの母親のことをいろいろと教えてもらえた。
// <0134> 浮き沈みが激しい人だったということ。
<0134> 浮き沈みが激しい人だったということ。
// <0135> 心が弱くて、精神科に通っていたということ。
<0135> 心が弱くて、精神科に通っていたということ。
// <0136> それでも失踪する寸前は、いつも通りだったということ。
<0136> それでも失踪する寸前は、いつも通りだったということ。
// <0137> 最後に、写真を見せてもらった。
<0137> 最後に、写真を見せてもらった。
// <0138> この家の子供と一緒に映るともがいた。
<0138> この家の子供と一緒に映るともがいた。
// <0139> 運動会の写真。
<0139> 運動会の写真。
// <0140> その中に一枚だけ、ともと、目の前にいる女性とは似つかない大人の女性との2ショット写真があった。
<0140> その中に一枚だけ、ともと、目の前にいる女性とは似つかない大人の女性との2ショット写真があった。
// <0141> \{女性}「この人が、ともちゃんのお母さんです」
<0141> \{Woman}「この人が、ともちゃんのお母さんです」
// <0142> レジャーシートを敷いて、その上でふたりで弁当を食べていた。
<0142> レジャーシートを敷いて、その上でふたりで弁当を食べていた。
// <0143> ともは食べるのに必死。
<0143> ともは食べるのに必死。
// <0144> 母親はそんなともを見て笑っていた。目を線にして。
<0144> 母親はそんなともを見て笑っていた。目を線にして。
// <0145> とても優しい笑顔だった。
<0145> とても優しい笑顔だった。
// <0146> \{女性}「それ、よろしければどうぞ」
<0146> \{Woman}「それ、よろしければどうぞ」
// <0147> 数少ない手がかりだ。ありがたく頂いておくことにした。
<0147> 数少ない手がかりだ。ありがたく頂いておくことにした。
// <0148> アパートの前に鷹文がいた。
<0148> アパートの前に鷹文がいた。
// <0149> 俺を見つけると、慌てた様子で駆け寄ってくる。
<0149> 俺を見つけると、慌てた様子で駆け寄ってくる。
// <0150> \{鷹文}「にぃちゃん、大変っ、ともがいなくなったんだっ」
<0150> \{Takafumi}「にぃちゃん、大変っ、ともがいなくなったんだっ」
// <0151> \{鷹文}「ねぇちゃんが幼稚園まで迎えにいったら、もういなくなってて…」
<0151> \{Takafumi}「ねぇちゃんが幼稚園まで迎えにいったら、もういなくなってて…」
// <0152> \{鷹文}「幼稚園の先生も、帰り支度するところまでは見てるんだけど、ひとりで帰っちゃったみたいでさっ」
<0152> \{Takafumi}「幼稚園の先生も、帰り支度するところまでは見てるんだけど、ひとりで帰っちゃったみたいでさっ」
// <0153> \{朋也}「智代は?」
<0153> \{Tomoya}「智代は?」
// <0154> \{鷹文}「今、探してる」
<0154> \{Takafumi}「今、探してる」
// <0155> \{朋也}「どこを?」
<0155> \{Tomoya}「どこを?」
// <0156> \{鷹文}「さぁ…闇雲にだと思うけど」
<0156> \{Takafumi}「さぁ…闇雲にだと思うけど」
// <0157> \{朋也}「おまえの姉貴はさ…」
<0157> \{Tomoya}「おまえの姉貴はさ…」
// <0158> \{朋也}「簡単に冷静さを失うよな…」
<0158> \{Tomoya}「簡単に冷静さを失うよな…」
// <0159> \{鷹文}「あの人は、そういうところは子供だからねぇ…」
<0159> \{Takafumi}「あの人は、そういうところは子供だからねぇ…」
// <0160> すまん、鷹文。とものことを忘れて、ひとっ風呂浴びていた俺も子供だ。
<0160> すまん、鷹文。とものことを忘れて、ひとっ風呂浴びていた俺も子供だ。
// <0161> すまん、鷹文。とものことを忘れて、安売りセールで躍起になっていた俺も子供だ。
<0161> すまん、鷹文。とものことを忘れて、安売りセールで躍起になっていた俺も子供だ。
// <0162> \{朋也}「とっとと智代と合流するぞ」
<0162> \{Tomoya}「とっとと智代と合流するぞ」
// <0163> \{鷹文}「え? あ、うん」
<0163> \{Takafumi}「え? あ、うん」
// <0164> 俺たちは走り出す。
<0164> 俺たちは走り出す。
// <0165> 智代は幼稚園までの道のりで捕まった。
<0165> 智代は幼稚園までの道のりで捕まった。
// <0166> \{智代}「ああ、朋也っ、大変なんだっ」
<0166> \{Tomoyo}「ああ、朋也っ、大変なんだっ」
// <0167> \{朋也}「聞いてるよ。まあ、落ち着け」
<0167> \{Tomoya}「聞いてるよ。まあ、落ち着け」
// <0168> \{智代}「落ち着いてられるかっ、ともがいなくなってしまったんだぞっ」
<0168> \{Tomoyo}「落ち着いてられるかっ、ともがいなくなってしまったんだぞっ」
// <0169> \{智代}「ひとりなんだぞっ、あんな小さいんだぞっ」
<0169> \{Tomoyo}「ひとりなんだぞっ、あんな小さいんだぞっ」
// <0170> \{智代}「迷子になってるかもしれないんだぞっ、可哀想じゃないかっ」
<0170> \{Tomoyo}「迷子になってるかもしれないんだぞっ、可哀想じゃないかっ」
// <0171> すまん、智代。そんな時に俺は評判のいい銭湯でひとっ風呂浴びていた。
<0171> すまん、智代。そんな時に俺は評判のいい銭湯でひとっ風呂浴びていた。
// <0172> すまん、智代。そんな時に俺は安売りセールで主婦と戦っていた。
<0172> すまん、智代。そんな時に俺は安売りセールで主婦と戦っていた。
// <0173> \{朋也}「場所はわかる。いこう」
<0173> \{Tomoya}「場所はわかる。いこう」
// <0174> \{智代}「え? どうしてわかるんだ? またおまえの悪戯か?」
<0174> \{Tomoyo}「え? どうしてわかるんだ? またおまえの悪戯か?」
// <0175> \{朋也}「違う。冷静になって考えてみろ。すぐわかるから」
<0175> \{Tomoya}「違う。冷静になって考えてみろ。すぐわかるから」
// <0176> \{智代}「う…うん…」
<0176> \{Tomoyo}「う…うん…」
// <0177> しばし目を瞑り、考える。
<0177> しばし目を瞑り、考える。
// <0178> \{智代}「う…うわああぁ…ともが、ともがああぁぁ…」
<0178> \{Tomoyo}「う…うわああぁ…ともが、ともがああぁぁ…」
// <0179> \{朋也}「おまえ悲観しすぎだからな…」
<0179> \{Tomoya}「おまえ悲観しすぎだからな…」
// <0180> \{朋也}「ほら、立て。今もあいつはひとりだぞ」
<0180> \{Tomoya}「ほら、立て。今もあいつはひとりだぞ」
// <0181> 泣き崩れる智代の腕を持ち上げる。
<0181> 泣き崩れる智代の腕を持ち上げる。
// <0182> \{智代}「とも…どこにひとりでいるんだ…」
<0182> \{Tomoyo}「とも…どこにひとりでいるんだ…」
// <0183> \{朋也}「あいつの家」
<0183> \{Tomoya}「あいつの家」
// <0184> \{智代}「…家?」
<0184> \{Tomoyo}「…家?」
// <0185> \{朋也}「一日であれだけ親に話が回ってるんだ」
<0185> \{Tomoya}「一日であれだけ親に話が回ってるんだ」
// <0186> \{朋也}「とも自身にもすぐ届くだろ」
<0186> \{Tomoya}「とも自身にもすぐ届くだろ」
// <0187> \{朋也}「そうしたら、それを確かめに帰る」
<0187> \{Tomoya}「そうしたら、それを確かめに帰る」
// <0188> \{智代}「あ、そうか…」
<0188> \{Tomoyo}「あ、そうか…」
// <0189> \{智代}「今からいくぞ、ともっ」
<0189> \{Tomoyo}「今からいくぞ、ともっ」
// <0190> ものすごい勢いで走っていく。
<0190> ものすごい勢いで走っていく。
// <0191> \{智代}「ああ、場所を知らないんだった、私はっ」
<0191> \{Tomoyo}「ああ、場所を知らないんだった、私はっ」
// <0192> 途中でまた崩れ落ちる。
<0192> 途中でまた崩れ落ちる。
// <0193> \{朋也}「もう言動がむちゃくちゃだな…」
<0193> \{Tomoya}「もう言動がむちゃくちゃだな…」
// <0194> \{鷹文}「可愛いでしょ」
<0194> \{Takafumi}「可愛いでしょ」
// <0195> \{朋也}「まぁな」
<0195> \{Tomoya}「まぁな」
// <0196> \{朋也}「おーい、こっちだぞ」
<0196> \{Tomoya}「おーい、こっちだぞ」
// <0197> \{智代}「なあ、朋也っ」
<0197> \{Tomoyo}「なあ、朋也っ」
// <0198> 先を走る智代が速度を緩めて訊く。
<0198> 先を走る智代が速度を緩めて訊く。
// <0199> \{朋也}「なにっ」
<0199> \{Tomoya}「なにっ」
// <0200> \{智代}「ともの家は…どうなってるんだろう…」
<0200> \{Tomoyo}「ともの家は…どうなってるんだろう…」
// <0201> 俺は、先ほど見てきた光景を伝える。
<0201> 俺は、先ほど見てきた光景を伝える。
// <0202> 誰も住んでいない1LDKの部屋。
<0202> 誰も住んでいない1LDKの部屋。
// <0203> 生活の跡さえ残っていないがらんとした室内。
<0203> 生活の跡さえ残っていないがらんとした室内。
// <0204> \{智代}「その部屋を目の当たりにして…ともはどう思うんだろうか…」
<0204> \{Tomoyo}「その部屋を目の当たりにして…ともはどう思うんだろうか…」
// <0205> \{智代}「そんなの残酷じゃないか…」
<0205> \{Tomoyo}「そんなの残酷じゃないか…」
// <0206> \{智代}「可哀想じゃないかっ」
<0206> \{Tomoyo}「可哀想じゃないかっ」
// <0207> \{智代}「ともは今日まで何も知らなかったんだぞっ」
<0207> \{Tomoyo}「ともは今日まで何も知らなかったんだぞっ」
// <0208> \{智代}「どうしてそんな仕打ちを…」
<0208> \{Tomoyo}「どうしてそんな仕打ちを…」
// <0209> \{智代}「ひどすぎるじゃないかっ」
<0209> \{Tomoyo}「ひどすぎるじゃないかっ」
// <0210> 闇雲に駆けていく。
<0210> 闇雲に駆けていく。
// <0211> \{智代}「はぁ…はぁ…」
<0211> \{Tomoyo}「はぁ…はぁ…」
// <0212> 智代が先に立っていた。息を切らせ、大量の汗で背中にシャツを貼りつけて。
<0212> 智代が先に立っていた。息を切らせ、大量の汗で背中にシャツを貼りつけて。
// <0213> さっき訪れたアパートの前。
<0213> さっき訪れたアパートの前。
// <0214> 俺と鷹文も遅れて辿り着く。
<0214> 俺と鷹文も遅れて辿り着く。
// <0215> 二階に続く錆びた鉄製の階段。
<0215> 二階に続く錆びた鉄製の階段。
// <0216> そこに、女の子が座り込んでいた。
<0216> そこに、女の子が座り込んでいた。
// <0217> \{智代}「ともっ!」
<0217> \{Tomoyo}「ともっ!」
// <0218> 智代が呼びかける。
<0218> 智代が呼びかける。
// <0219> ともが顔を上げる。
<0219> ともが顔を上げる。
// <0220> その顔は一瞬期待に満ちていた。
<0220> その顔は一瞬期待に満ちていた。
// <0221> が、すぐにその表情は沈んで消えた。
<0221> が、すぐにその表情は沈んで消えた。
// <0222> またうなだれる。
<0222> またうなだれる。
// <0223> ともが待っていたのは智代じゃなかった。
<0223> ともが待っていたのは智代じゃなかった。
// <0224> 母親だった。
<0224> 母親だった。
// <0225> 智代もそれがわかって、言葉を失う。
<0225> 智代もそれがわかって、言葉を失う。
// <0226> 何か言いかけては、やめるのを繰り返した。
<0226> 何か言いかけては、やめるのを繰り返した。
// <0227> そして泣き出しそうな顔をこちらに向けた。
<0227> そして泣き出しそうな顔をこちらに向けた。
// <0228> その口が俺の名前を呟いた。
<0228> その口が俺の名前を呟いた。
// <0229> 俺に抱きつきたかったのだろう。
<0229> 俺に抱きつきたかったのだろう。
// <0230> でも、智代はそれをしなかった。
<0230> でも、智代はそれをしなかった。
// <0231> ともを置いてはこれなかった。
<0231> ともを置いてはこれなかった。
// <0232> 智代はともに向き直る。
<0232> 智代はともに向き直る。
// <0233> そして、迷った後、口を開く。
<0233> そして、迷った後、口を開く。
// <0234> 一番に言うべき言葉を伝えた。
<0234> 一番に言うべき言葉を伝えた。
// <0235> \{智代}「とも、帰ろう」
<0235> \{Tomoyo}「とも、帰ろう」
// <0236> …残酷な言葉だった。
<0236> …残酷な言葉だった。
// <0237> ともは、小さく、帰れない、と呟いた。
<0237> ともは、小さく、帰れない、と呟いた。
// <0238> それはもう、ない、自分の家に。
<0238> それはもう、ない、自分の家に。
// <0239> そして、口を開いて声を出しながら泣いた。
<0239> そして、口を開いて声を出しながら泣いた。
// <0240> ずっと堪えていたものが決壊して、一気に溢れだした。
<0240> ずっと堪えていたものが決壊して、一気に溢れだした。
// <0241> 顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
<0241> 顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
// <0242> 智代もそうしたかっただろう。頬が何度も震えた。
<0242> 智代もそうしたかっただろう。頬が何度も震えた。
// <0243> でも、泣かなかった。
<0243> でも、泣かなかった。
// <0244> 顎を引いて、表情を引き締めた。
<0244> 顎を引いて、表情を引き締めた。
// <0245> \{智代}「とも」
<0245> \{Tomoyo}「とも」
// <0246> 近づいていって、前屈みになり、その震え続ける肩に手を置く。
<0246> 近づいていって、前屈みになり、その震え続ける肩に手を置く。
// <0247> \{智代}「とものことは…」
<0247> \{Tomoyo}「とものことは…」
// <0248> \{智代}「…私が守るから」
<0248> \{Tomoyo}「…私が守るから」
// <0249> \{智代}「だから、安心しろ」
<0249> \{Tomoyo}「だから、安心しろ」
// <0250> そう優しく言った。
<0250> そう優しく言った。
// <0251> \{とも}「おかあさんは…?」
<0251> \{Tomo}「おかあさんは…?」
// <0252> 俺が探す
<0252> 俺が探す
// <0253> 探さない
<0253> 探さない
// <0254> \{朋也}「俺が探すから」
<0254> \{Tomoya}「俺が探すから」
// <0255> 俺がそう約束した。
<0255> 俺がそう約束した。
// <0256> \{朋也}「ともとふたりで話ができるように、俺がするから」
<0256> \{Tomoya}「ともとふたりで話ができるように、俺がするから」
// <0257> \{朋也}「だから、帰ろう」
<0257> \{Tomoya}「だから、帰ろう」
// <0258> \{とも}「………」
<0258> \{Tomo}「………」
// <0259> ともは泣きやんでいた。
<0259> ともは泣きやんでいた。
// <0260> ただ、小さく頷くだけだった。
<0260> ただ、小さく頷くだけだった。
// <0261> できない約束はするもんじゃないと思った。
<0261> できない約束はするもんじゃないと思った。
// <0262> その後も智代が必死になぐさめ、どうにか揃って帰路につくことができた。
<0262> その後も智代が必死になぐさめ、どうにか揃って帰路につくことができた。
// <0263> 部屋に戻ってきても、ともはふさぎ込んだままだった。
<0263> 部屋に戻ってきても、ともはふさぎ込んだままだった。
// <0264> ともの姿は痛々しすぎて、どんな言葉もかけられずにいた。
<0264> ともの姿は痛々しすぎて、どんな言葉もかけられずにいた。
// <0265> 狭い部屋には4人もいるのに、沈黙が続く。
<0265> 狭い部屋には4人もいるのに、沈黙が続く。
// <0266> ここでも最初に動いたのは智代だった。
<0266> ここでも最初に動いたのは智代だった。
// <0267> \{智代}「とも」
<0267> \{Tomoyo}「とも」
// <0268> 智代がふたつの人形を持って、近づいていく。
<0268> 智代がふたつの人形を持って、近づいていく。
// <0269> \{智代}「ほら、パンダはとも」
<0269> \{Tomoyo}「ほら、パンダはとも」
// <0270> \{智代}「私がクマだ」
<0270> \{Tomoyo}「私がクマだ」
// <0271> 片方をともに渡すも、それは手の甲を滑って、落ちた。
<0271> 片方をともに渡すも、それは手の甲を滑って、落ちた。
// <0272> 智代は少しの間、床に落ちたそれを悲しげに見つめていたが、拾い上げて、ともに向ける。
<0272> 智代は少しの間、床に落ちたそれを悲しげに見つめていたが、拾い上げて、ともに向ける。
// <0273> \{智代}「じゃあ、今日はパンダも私がする」
<0273> \{Tomoyo}「じゃあ、今日はパンダも私がする」
// <0274> \{朋也}「じゃあ、俺が智代のクマ」
<0274> \{Tomoya}「じゃあ、俺が智代のクマ」
// <0275> その背中に近づいていって、肩に手を置いて、俺は言った。
<0275> その背中に近づいていって、肩に手を置いて、俺は言った。
// <0276> 智代は振り返ると、嬉しそうに笑った。
<0276> 智代は振り返ると、嬉しそうに笑った。
// <0277> クマを受け取って、動かしてみる。
<0277> クマを受け取って、動かしてみる。
// <0278> \{朋也}「ともー、こっち向いて」
<0278> \{Tomoya}「ともー、こっち向いて」
// <0279> 智代の持つパンダに呼びかける。
<0279> 智代の持つパンダに呼びかける。
// <0280> \{智代}「ん?」
<0280> \{Tomoyo}「ん?」
// <0281> \{朋也}「とも、好きだーーーっ!」
<0281> \{Tomoya}「とも、好きだーーーっ!」
// <0282> がばぁ!とパンダをねじ伏せる。
<0282> がばぁ!とパンダをねじ伏せる。
// <0283> \{智代}「馬鹿っ、私が変態になってるじゃないかっ!」
<0283> \{Tomoyo}「馬鹿っ、私が変態になってるじゃないかっ!」
// <0284> \{朋也}「いや、おまえ、こんなんだって」
<0284> \{Tomoya}「いや、おまえ、こんなんだって」
// <0285> \{智代}「そんな変態だったのか…私は…」
<0285> \{Tomoyo}「そんな変態だったのか…私は…」
// <0286> \{朋也}「おまえ、好きな人には盲目的だもん」
<0286> \{Tomoya}「おまえ、好きな人には盲目的だもん」
// <0287> \{智代}「そうか…」
<0287> \{Tomoyo}「そうか…」
// <0288> \{智代}「悪かったな…とも…」
<0288> \{Tomoyo}「悪かったな…とも…」
// <0289> \{智代}「ほら、おまえも離れろ」
<0289> \{Tomoyo}「ほら、おまえも離れろ」
// <0290> パンダがクマを押し返す。
<0290> パンダがクマを押し返す。
// <0291> \{智代}「ああ、でも離れてしまうと寂しいな…」
<0291> \{Tomoyo}「ああ、でも離れてしまうと寂しいな…」
// <0292> \{智代}「手をつなごう」
<0292> \{Tomoyo}「手をつなごう」
// <0293> \{智代}「ほら、手を出せ」
<0293> \{Tomoyo}「ほら、手を出せ」
// <0294> \{朋也}「はい」
<0294> \{Tomoya}「はい」
// <0295> \{智代}「それは足だ…」
<0295> \{Tomoyo}「それは足だ…」
// <0296> \{智代}「手をつなぐんだ」
<0296> \{Tomoyo}「手をつなぐんだ」
// <0297> \{智代}「うん、そうだ」
<0297> \{Tomoyo}「うん、そうだ」
// <0298> \{智代}「ふたりは仲良しだ」
<0298> \{Tomoyo}「ふたりは仲良しだ」
// <0299> \{朋也}「とも、好きだーーーっ!」
<0299> \{Tomoya}「とも、好きだーーーっ!」
// <0300> がばぁ!とねじ伏せてやる。
<0300> がばぁ!とねじ伏せてやる。
// <0301> \{智代}「ああ、私は変態だああぁーーっ!」
<0301> \{Tomoyo}「ああ、私は変態だああぁーーっ!」
// <0302> \{智代}「あっち行ってくれ、変態は…しっし」
<0302> \{Tomoyo}「あっち行ってくれ、変態は…しっし」
// <0303> \{朋也}「じゃ、いくよ」
<0303> \{Tomoya}「じゃ、いくよ」
// <0304> とことことクマを歩かせていく。
<0304> とことことクマを歩かせていく。
// <0305> その歩みが止まる。
<0305> その歩みが止まる。
// <0306> 俺の腕を、ともが握っていた。
<0306> 俺の腕を、ともが握っていた。
// <0307> それを引き寄せる。
<0307> それを引き寄せる。
// <0308> その先は、智代の持つパンダ。
<0308> その先は、智代の持つパンダ。
// <0309> ふたつを触れあわせた。
<0309> ふたつを触れあわせた。
// <0310> \{智代}「とも…?」
<0310> \{Tomoyo}「とも…?」
// <0311> \{とも}「………」
<0311> \{Tomo}「………」
// <0312> 答えはない。でも、寂しいんだ、ともは。
<0312> 答えはない。でも、寂しいんだ、ともは。
// <0313> 俺は智代の横顔を見る。
<0313> 俺は智代の横顔を見る。
// <0314> どうしていいのか悩んでいる。
<0314> どうしていいのか悩んでいる。
// <0315> 俺は笑いかけてやる。そんな智代に。
<0315> 俺は笑いかけてやる。そんな智代に。
// <0316> 智代は少し戸惑った後、同じように笑った。
<0316> 智代は少し戸惑った後、同じように笑った。
// <0317> そして、ともを背中から抱きしめた。
<0317> そして、ともを背中から抱きしめた。
// <0318> \{智代}「好きだ、とも」
<0318> \{Tomoyo}「好きだ、とも」
// <0319> 俺の演技よりは控えめに。
<0319> 俺の演技よりは控えめに。
// <0320> \{智代}「ずっとそばにいるからな」
<0320> \{Tomoyo}「ずっとそばにいるからな」
// <0321> \{とも}「うん…」
<0321> \{Tomo}「うん…」
// <0322> ともがその腕を抱く。
<0322> ともがその腕を抱く。
// <0323> 智代も強く抱く。
<0323> 智代も強く抱く。
// <0324> \{とも}「…いっぱいちゅーして」
<0324> \{Tomo}「…いっぱいちゅーして」
// <0325> ともがそう言った。
<0325> ともがそう言った。
// <0326> \{智代}「ん…?」
<0326> \{Tomoyo}「ん…?」
// <0327> \{とも}「ともにもいっぱいちゅーして…」
<0327> \{Tomo}「ともにもいっぱいちゅーして…」
// <0328> \{とも}「おかあさん…むかしはいっぱいしてくれたのに…」
<0328> \{Tomo}「おかあさん…むかしはいっぱいしてくれたのに…」
// <0329> \{とも}「してくれなくなったんだ…」
<0329> \{Tomo}「してくれなくなったんだ…」
// <0330> \{とも}「とものこときらいになったから…」
<0330> \{Tomo}「とものこときらいになったから…」
// <0331> \{とも}「すきだったら、ちゅーしてほしい…」
<0331> \{Tomo}「すきだったら、ちゅーしてほしい…」
// <0332> …そうして安心したいんだ。
<0332> …そうして安心したいんだ。
// <0333> \{智代}「うん、するぞ、ちゅー」
<0333> \{Tomoyo}「うん、するぞ、ちゅー」
// <0334> その頬に唇を触れさせる。
<0334> その頬に唇を触れさせる。
// <0335> ともは安心したように、智代に体重を預けた。
<0335> ともは安心したように、智代に体重を預けた。
// <0336> \{智代}「ずっと好きだから、とも」
<0336> \{Tomoyo}「ずっと好きだから、とも」
// <0337> \{とも}「うん」
<0337> \{Tomo}「うん」
// <0338> \{とも}「パパにもね」
<0338> \{Tomo}「パパにもね」
// <0339> \{智代}「う…」
<0339> \{Tomoyo}「う…」
// <0340> \{智代}「あいつは、鷹文とするからいいんだ」
<0340> \{Tomoyo}「あいつは、鷹文とするからいいんだ」
// <0341> 俺と鷹文がコケる。
<0341> 俺と鷹文がコケる。
// <0342> \{とも}「えーパパとおにぃちゃんがするのー?」
<0342> \{Tomo}「えーパパとおにぃちゃんがするのー?」
// <0343> \{智代}「気持ち悪いぞ」
<0343> \{Tomoyo}「気持ち悪いぞ」
// <0344> \{とも}「でも、すっごくなかがいいってかんじする」
<0344> \{Tomo}「でも、すっごくなかがいいってかんじする」
// <0345> \{智代}「気持ち悪いけどな」
<0345> \{Tomoyo}「気持ち悪いけどな」
// <0346> \{とも}「でも、みてみたい」
<0346> \{Tomo}「でも、みてみたい」
// <0347> \{智代}「気持ち悪いぞ」
<0347> \{Tomoyo}「気持ち悪いぞ」
// <0348> ともの表情が和らいでいった。
<0348> ともの表情が和らいでいった。
// <0349> \{鷹文}「僕、そろそろ帰るね」
<0349> \{Takafumi}「僕、そろそろ帰るね」
// <0350> もう大丈夫だと悟ってか、鷹文が立ち上がる。
<0350> もう大丈夫だと悟ってか、鷹文が立ち上がる。
// <0351> その後、ともはずっと智代から離れずにいた。
<0351> その後、ともはずっと智代から離れずにいた。
// <0352> 少しでも離れると消えてしまうとばかりに、ずっと智代のどこかを掴んでいた。
<0352> 少しでも離れると消えてしまうとばかりに、ずっと智代のどこかを掴んでいた。
// <0353> 何度も智代はそんなともに、大丈夫と言って、頭を撫で、キスをした。
<0353> 何度も智代はそんなともに、大丈夫と言って、頭を撫で、キスをした。
// <0354> 遅い夕飯を取り、お風呂に入って、そして就寝。
<0354> 遅い夕飯を取り、お風呂に入って、そして就寝。
// <0355> \{とも}「おやすみのちゅー」
<0355> \{Tomo}「おやすみのちゅー」
// <0356> \{智代}「おまえはほんとにキス魔だな…」
<0356> \{Tomoyo}「おまえはほんとにキス魔だな…」
// <0357> \{智代}「大きくなっても、そんなんだとちょっとまずいぞ」
<0357> \{Tomoyo}「大きくなっても、そんなんだとちょっとまずいぞ」
// <0358> \{とも}「そーなの?」
<0358> \{Tomo}「そーなの?」
// <0359> \{智代}「ああ、見境なくいろんな人にちゅーをねだってたら、ヘンな子だ」
<0359> \{Tomoyo}「ああ、見境なくいろんな人にちゅーをねだってたら、ヘンな子だ」
// <0360> \{とも}「だいじょうぶ、パパのママだけだよ」
<0360> \{Tomo}「だいじょうぶ、パパのママだけだよ」
// <0361> \{智代}「そうか…なら許そう。他の奴にはこんなことさせてはダメだぞ」
<0361> \{Tomoyo}「そうか…なら許そう。他の奴にはこんなことさせてはダメだぞ」
// <0362> \{とも}「うん」
<0362> \{Tomo}「うん」
// <0363> \{智代}「おやすみ」
<0363> \{Tomoyo}「おやすみ」
// <0364> ともの額を掻き上げ、そこに唇を当てた。
<0364> ともの額を掻き上げ、そこに唇を当てた。
// <0365> \{とも}「おやすみー」
<0365> \{Tomo}「おやすみー」
// <0366> ともはその感触を覚えているうちにと、目を閉じる。
<0366> ともはその感触を覚えているうちにと、目を閉じる。
// <0367> ………。
<0367> ………。
// <0368> ……。
<0368> ……。
// <0369> ………。
<0369> ………。
// <0370> \{智代}「起きてるか…?」
<0370> \{Tomoyo}「起きてるか…?」
// <0371> ともの髪を撫でていた智代がそう呟く。
<0371> ともの髪を撫でていた智代がそう呟く。
// <0372> ああ、と俺は頷く。
<0372> ああ、と俺は頷く。
// <0373> \{智代}「大変な一日だった…ともにとって」
<0373> \{Tomoyo}「大変な一日だった…ともにとって」
// <0374> \{朋也}「だな」
<0374> \{Tomoya}「だな」
// <0375> \{智代}「朋也は…どうするつもりなんだ」
<0375> \{Tomoyo}「朋也は…どうするつもりなんだ」
// <0376> \{朋也}「ん?」
<0376> \{Tomoya}「ん?」
// <0377> \{智代}「ともの母親を探す約束をしただろ…」
<0377> \{Tomoyo}「ともの母親を探す約束をしただろ…」
// <0378> \{朋也}「ああ…」
<0378> \{Tomoya}「ああ…」
// <0379> \{智代}「探して…それからどうするんだ…」
<0379> \{Tomoyo}「探して…それからどうするんだ…」
// <0380> \{朋也}「決めてない」
<0380> \{Tomoya}「決めてない」
// <0381> 正直にそう答えた。
<0381> 正直にそう答えた。
// <0382> \{智代}「そうなのか…」
<0382> \{Tomoyo}「そうなのか…」
// <0383> \{智代}「もしかしたら…説得するんじゃないかって思ってた…」
<0383> \{Tomoyo}「もしかしたら…説得するんじゃないかって思ってた…」
// <0384> \{智代}「ともを…責任持って育てろって…」
<0384> \{Tomoyo}「ともを…責任持って育てろって…」
// <0385> \{智代}「おまえなら、そう言いそうだ…」
<0385> \{Tomoyo}「おまえなら、そう言いそうだ…」
// <0386> \{朋也}「まあな…そうしないと探し出す意味がない」
<0386> \{Tomoya}「まあな…そうしないと探し出す意味がない」
// <0387> \{智代}「もうその人には…ともを育てる責任なんてない…」
<0387> \{Tomoyo}「もうその人には…ともを育てる責任なんてない…」
// <0388> \{智代}「それは放棄してしまったんだから…」
<0388> \{Tomoyo}「それは放棄してしまったんだから…」
// <0389> \{朋也}「いや、でも親だし」
<0389> \{Tomoya}「いや、でも親だし」
// <0390> \{智代}「………」
<0390> \{Tomoyo}「………」
// <0391> \{智代}「私だって…異母姉妹だ…他人じゃない…」
<0391> \{Tomoyo}「私だって…異母姉妹だ…他人じゃない…」
// <0392> \{朋也}「そんなこと張り合うことじゃない」
<0392> \{Tomoya}「そんなこと張り合うことじゃない」
// <0393> \{智代}「うん…そうだな…」
<0393> \{Tomoyo}「うん…そうだな…」
// <0394> \{智代}「でも、私は…とものそばにずっといるって誓ったんだ…」
<0394> \{Tomoyo}「でも、私は…とものそばにずっといるって誓ったんだ…」
// <0395> \{智代}「たくさんキスしてほしいって言ってくれたんだ…」
<0395> \{Tomoyo}「たくさんキスしてほしいって言ってくれたんだ…」
// <0396> \{智代}「私はしてやれる。この子の母親と違って…」
<0396> \{Tomoyo}「私はしてやれる。この子の母親と違って…」
// <0397> \{智代}「私のほうが…」
<0397> \{Tomoyo}「私のほうが…」
// <0398> そこで言葉を切る。
<0398> そこで言葉を切る。
// <0399> 智代は寝返りを打って、天井を向いた。
<0399> 智代は寝返りを打って、天井を向いた。
// <0400> \{智代}「ああ…嫌な人間になってしまっている…」
<0400> \{Tomoyo}「ああ…嫌な人間になってしまっている…」
// <0401> \{智代}「私のわがままだ…」
<0401> \{Tomoyo}「私のわがままだ…」
// <0402> \{智代}「説得してくれ…朋也…」
<0402> \{Tomoyo}「説得してくれ…朋也…」
// <0403> \{朋也}「まあ、そう焦って物事を考えるな」
<0403> \{Tomoya}「まあ、そう焦って物事を考えるな」
// <0404> \{朋也}「はなから説得しにはかからない」
<0404> \{Tomoya}「はなから説得しにはかからない」
// <0405> \{朋也}「まずは話を聞いてみるだけだ」
<0405> \{Tomoya}「まずは話を聞いてみるだけだ」
// <0406> そして、俺は昔を思い出す。
<0406> そして、俺は昔を思い出す。
// <0407> 智代とつきあい始めた頃のことを。
<0407> 智代とつきあい始めた頃のことを。
// <0408> あの時と同じように、人を好きになり、周りが見えなくなっている智代。
<0408> あの時と同じように、人を好きになり、周りが見えなくなっている智代。
// <0409> あの時はふたりしかいなかった。
<0409> あの時はふたりしかいなかった。
// <0410> 当事者しかいなかった。
<0410> 当事者しかいなかった。
// <0411> でも今は、俺がいる。鷹文もいる。
<0411> でも今は、俺がいる。鷹文もいる。
// <0412> あの時と同じようにはしない。
<0412> あの時と同じようにはしない。
// <0413> ならないようにする、俺たちが。
<0413> ならないようにする、俺たちが。
// <0414> \{智代}「でも、これからは時間が癒していくと思う」
<0414> \{Tomoyo}「でも、これからは時間が癒していくと思う」
// <0415> \{智代}「今はつらいだろうけど…」
<0415> \{Tomoyo}「今はつらいだろうけど…」
// <0416> \{智代}「きっと乗り越えられる…」
<0416> \{Tomoyo}「きっと乗り越えられる…」
// <0417> \{智代}「そうすれば幸せな日だけが待っている」
<0417> \{Tomoyo}「そうすれば幸せな日だけが待っている」
// <0418> \{朋也}「そうなるといいな…」
<0418> \{Tomoya}「そうなるといいな…」
// <0419> \{智代}「うん…私がそうするんだ」
<0419> \{Tomoyo}「うん…私がそうするんだ」
// <0420> \{朋也}「おやすみ」
<0420> \{Tomoya}「おやすみ」
// <0421> 気疲れしていたのだろうか、目を閉じるとすぐ眠りは訪れた。
<0421> 気疲れしていたのだろうか、目を閉じるとすぐ眠りは訪れた。